スタッドレスタイヤの溝深さの限界は? 溝が浅いリスクとは
冬の安全運転に欠かせないスタッドレスタイヤですが、溝が浅くなった状態で使用すると、氷雪路での制動距離が長くなり、スリップしやすくなるため大変危険です。
法的には溝深さが1.6mmになるまでは使用可能ですが、スタッドレスタイヤとしての性能を十分に発揮するためには、より早い段階での交換が推奨されます。
この記事では、スタッドレスタイヤの適切な交換時期や、溝が浅くなることで生じるリスク、長持ちさせるための方法などについて、詳しく解説します。
スタッドレスタイヤの溝深さの限界
スタッドレスタイヤの溝深さには、法的な限界と安全性を考慮した実質的な限界があります。スタッドレスタイヤの本来の性能を維持するためには、より早い段階での交換が必要です。
ここでは、それぞれの基準について詳しく見ていきましょう。
法定限度は1.6mmまで
スタッドレスタイヤに限らず、溝深さが1.6mm以下になったタイヤは、道路交通法によって装着および使用が禁止されています。
タイヤの溝深さが1.6mmになると、「スリップサイン」と呼ばれるマークが現れます。スリップサインが1箇所でも出たタイヤは、必ず交換しなくてはなりません。

※タイヤによっては、スリップサインが三角マークの延長線上に正確に位置していないことがあります。
安全上の使用限度は新品時から50%の摩耗
溝深さ1.6mmという基準はあくまで法定限度であり、スタッドレスタイヤとしての性能の限界はそれよりも早い段階で訪れます。これはスタッドレスタイヤの構造によるものです。
スタッドレスタイヤの溝には、「太くて深い溝」と「細かな切れ込み」が多数設けられています。太くて深い溝は、雪をしっかりと掴み、濡れた路面の水を外へ排出する役割(排水機能)を担っています。細かな切れ込みは、氷を引っ掻いてグリップ力を向上させる役割と、水の膜を除去して路面との密着を高める役割を持ちます。
したがって、スタッドレスタイヤが氷雪路で安全に走行するためには、十分な溝深さが不可欠です。

左:REGNO GR-X3(夏タイヤ)、右:BLIZZAK WZ1(冬タイヤ)
しかし、タイヤの溝は使用によって摩耗し、浅くなるものです。スタッドレスタイヤの場合、新品時の溝深さから約50%摩耗したところで、氷雪路性能を十分に引き出すことが難しくなります。
そのため、ブリヂストンでは50%摩耗をスタッドレスタイヤの交換目安としています。50%の摩耗はスノープラットホームで簡単に確認できるため、定期的にチェックしましょう。

スタッドレスタイヤの溝が浅くなるとどうなる?
スタッドレスタイヤの溝が浅くなると、以下のようなリスクが生じます。
- ブレーキ性能の悪化やスリップの可能性が高まる
- 乾燥路や湿潤路での制動距離の増大につながる
- 湿潤路でハイドロプレーニング現象が発生しやすくなる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ブレーキ性能の悪化やスリップの可能性が高まる
スタッドレスタイヤの溝が浅くなると、雪上・氷上・湿潤路のいずれでもグリップ性能が低下します。路面状況ごとに、溝の役割と浅くなったときのリスクを整理すると以下のとおりです。
| 路面状況 | スタッドレスタイヤの溝の役割 | 溝が浅いとどうなる? |
|---|---|---|
| 雪路 | ![]() 深い溝の中で雪を踏み固めて掴むことで、 グリップ力を高める |
雪を踏み固める力が低下し、 雪路で滑りやすくなる |
| 氷路 | ![]() 溝の角で氷を引っ掻いて、 グリップ力を高める |
溝が浅いと除水が不十分になり、 エッジ効果が発揮されず凍結路で滑る |
| 湿潤路 | ![]() 路面とタイヤの間の水を溝から逃がして、 グリップ力を高める |
排水性能が落ち、 タイヤが浮きやすくなり滑る |
乾燥路や湿潤路での制動距離の増大につながる
スタッドレスタイヤは、氷雪路だけでなく乾燥路や湿潤路の走行も可能です。しかし、スタッドレスタイヤは氷雪路における走行性能を重視して設計されているため、夏タイヤと比べると、もともと乾燥路や湿潤路での走行性能は劣ります。
溝が浅くなると、その走行性能はさらに低下し、乾燥路や湿潤路での制動距離がさらに長くなります。制動距離はブレーキが効き始めてから実際に車が停止するまでの距離のことで、距離が長いほど追突事故などの可能性が高まるのです。

JAFが以下の条件で行ったテストにおいても、プラットホームが出現したスタッドレスタイヤは、どの溝深さの夏タイヤと比べても乾燥路・湿潤路ともに制動距離が最も長い結果となりました。
<平均値>
| タイヤの溝 | 時速60km(m) | 時速100km(m) | ||
|---|---|---|---|---|
| 直線 | 旋回 | 直線 | 旋回 | |
| 夏タイヤ (10分山) |
乾燥路:17.0 湿潤路:16.7 |
乾燥路:19.2 湿潤路:19.4 |
乾燥路:47.5 湿潤路:47.6 |
‐ |
| 夏タイヤ (5分山) |
乾燥路:16.3 湿潤路:16.7 |
乾燥路:18.4 湿潤路:19.5 |
乾燥路:44.1 湿潤路:50.8 |
‐ |
| 夏タイヤ (2分山) |
乾燥路:15.8 湿潤路:18.0 |
乾燥路:18.6 湿潤路:20.6 |
乾燥路:42.6 湿潤路:70.5 |
‐ |
| スタッドレスタイヤ (プラットホーム出現) |
乾燥路:18.8 湿潤路:20.3 |
乾燥路:20.8 湿潤路:26.7 |
乾燥路:51.1 湿潤路:72.2 |
‐ |
※出典元:摩耗タイヤの検証(JAFユーザーテスト)
湿潤路でハイドロプレーニング現象が発生しやすくなる
タイヤの溝の役割のひとつが、濡れた路面から水を排出することです。排水が追いつかないと、タイヤが路面の水膜の上に浮いた状態となり、ハンドル操作やブレーキが効かなくなるハイドロプレーニング現象が発生します。排水性能はタイヤの溝が浅くなるにしたがって低下します。

スタッドレスタイヤは、凍った路面の凹凸に密着させるために、夏タイヤよりも柔らかいゴムを使用しています。一方、排水性能についてはゴムの柔らかさよりもトレッドパタン(溝の形状や体積)が大きく影響します。溝が浅くなるとさらにその性能は低下し、ハイドロプレーニング現象が発生しやすくなるのです。

スタッドレスタイヤが雨の日に滑りやすい理由と安全のポイント
スタッドレスタイヤで雨天時に走行した際に起こりやすい現象や安全運転のポイントを解説します。
スタッドレスタイヤの溝深さを長く維持させるコツ
溝が摩耗したスタッドレスタイヤは交換が必要ですが、スタッドレスタイヤは一般的に高価なパーツであるため、できるだけ長く使いたいものです。
ここでは、溝深さを保つための方法をいくつか紹介します。
- 適正空気圧を維持する
- 定期的にタイヤの位置交換とアライメントを行う
- 季節に応じてタイヤを使い分ける
- 安全運転を心がける
ひとつずつ見ていきましょう。
適正空気圧を維持する
空気圧が不足した状態で走行すると、タイヤは大きく変形し、地面に押し付けられることで摩耗しやすくなります。タイヤの空気圧は走行しなくても自然と徐々に低下していき、乗用車用タイヤでは、1ヶ月で5%程度(※)も低下するとされています。
知らず知らずのうちに空気圧が不足していることも少なくないため、最低でも1ヶ月に1度は適正空気圧かどうかを点検し、必要に応じて調整するようにしましょう。
【適正空気圧の表示場所】


スタッドレスタイヤの空気圧はどれくらい?適正値や調整方法を紹介
スタッドレスタイヤの空気圧は基本的にノーマルタイヤと同じですが、インチアップ時は調整が必要です。
※出典元:一般社団法人 日本自動車タイヤ協会 JATMA調べ
定期的にタイヤの位置交換とアライメントを行う
タイヤは、4つすべてが同じペースで摩耗するわけではありません。そのため、定期的にタイヤの装着位置を交換(ローテーション)することで、摩耗に差が出ることを防げます。
また、アライメントを実施することで、タイヤの摩耗が均一になります。アライメントとは、タイヤの取り付け位置や角度の誤差を修正して、車両の安定性を保つ作業です。


タイヤの位置交換(ローテーション)とアライメント
位置交換の考え方やポイント、アライメントと偏摩耗の関係などについてご紹介します。
季節に応じてタイヤを使い分ける
スタッドレスタイヤは夏タイヤと比べてゴムが柔らかいため、摩耗しやすい性質があります。また、夏場は気温が高いため、さらにゴムが柔らかくなり、より溝の減りが早くなります。
したがって、夏の時期には夏タイヤ(ノーマルタイヤ)の使用がおすすめです。

スタッドレスタイヤは夏に使うのはNG?理由やよくある質問を紹介
安全性と費用の観点から、スタッドレスタイヤを夏に使用することは推奨されていません。
安全運転を心がける
急ブレーキ、急ハンドル、ハンドルの据え切り(停車した状態でハンドル操作すること)は、タイヤに強い摩擦や負荷がかかり、早期の摩耗につながります。
余裕を持ったブレーキ・ハンドル操作は、安全運転に欠かせないだけでなく、タイヤの摩耗を抑え、寿命を延ばすためにも重要です。
スタッドレスタイヤの溝深さだけではない交換のタイミング
スタッドレスタイヤを交換すべきタイミングは溝深さだけではありません。
ゴム製品であるタイヤは、時間の経過とともに劣化が進むため、使用年数や外観の変化も重要な判断基準となります。
| スタッドレスタイヤの点検・交換を推奨するタイミング | 理由 | |
|---|---|---|
| 点検を推奨 | 使用開始から5年経過したとき | タイヤはゴム製品であり、ゴムは使わずに保管していても時間が経つと劣化する性質があります。経年劣化が進むと、ゴムに含まれる油分が揮発し、徐々に柔軟性が失われて硬くなります。 スタッドレスタイヤは、凍った路面でしっかりグリップするよう、夏タイヤよりも柔らかいゴムを使っているため、劣化してゴムが硬くなると滑りやすくなり危険です。 |
| 交換を推奨 (2分山) |
製造から10年経過したとき | |
| コードに達するひび割れやキズ | タイヤの骨格を形成する部分をコードといいます。 コードに達するほどのひび割れやキズを放置したまま走行を続けると、タイヤがバースト(破裂)する危険があります。 |
|
| 摩耗 | トレッド部(路面との接地面)が異常に摩耗する現象を偏摩耗といいます。 タイヤと路面との接地面積が減るため、ブレーキ性能が正しく発揮できなくなる恐れがあります。 |
|
| ピンチカット | タイヤに大きな衝撃が加わることでタイヤのコードが切れ、その部分が膨らむことをピンチカットといいます。 この状態で使用を続けると、タイヤがバースト(破裂)する危険があります。 |
|
まとめ
スタッドレスタイヤは、太くて深い溝と細かな切れ込みがたくさん入っており、この構造によって氷雪路でのグリップ性能を支えています。溝深さが浅くなると氷雪路性能が低下し、スリップや制動距離の増大、ハイドロプレーニング現象が発生する可能性が高まります。
スタッドレスタイヤの溝深さの法定限度として1.6mm(スリップサインの出現)ですが、安全性の観点では新品時から50%摩耗(プラットホームの出現)した段階での交換がおすすめです。
適切なメンテナンスの実施や、季節や走行路面に応じたタイヤの使い分け、安全運転を心がけることで、交換の頻度を減らせます。また、スタッドレスタイヤを点検・交換するタイミングは溝深さだけではなく、使用年度やコードに達するひび割れの有無なども確認する必要があります。
ゴム製品であるタイヤは経年劣化が避けられず、走行距離や保管環境によって劣化の進み方は大きく異なります。定期的に点検を行い、摩耗やひび割れなどの異常が見られた場合は、年数にかかわらず早めに交換することが大切です。
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