雨天時の運転で特に注意したいのが、ハイドロプレーニング現象です。タイヤの状態や運転の仕方、天候を原因として起こるこの現象は、一瞬でハンドルやブレーキの操作を困難にし、重大な事故につながる可能性があります。
この記事では、ハイドロプレーニング現象のメカニズムやその危険性、効果的な予防策、万が一発生した際の対処法まで詳しく解説します。日々の運転で起こり得るリスクへの対策を知り、安全な運転を目指したい方は、ぜひ参考にしてください。
ハイドロプレーニング現象とは?
ハイドロプレーニング現象とは、濡れた道路を走行する際に、タイヤと路面の間に水膜が入り込み、タイヤが路面から浮いてしまう現象です。
ここでは、ハイドロプレーニング現象の危険性や発生する原因について見ていきましょう。
危険性
ハイドロプレーニング現象が起こると、水膜によってタイヤが路面に接地できなくなるため、ハンドルやブレーキの操作が効きにくくなり、スリップや制動距離の増加を招きます。
■制動距離とは?
特に、高速走行時はハイドロプレーニング現象は高速走行時に起こりやすく、その危険性もより深刻です。スピードが出ている環境下では、少しの操作ミスが大きな事故を招く恐れがあるためです。
発生する原因
ハイドロプレーニング現象は、単に「路面が濡れている」というだけで発生するものではありません。路面の状態に加えて、以下のような要因が組み合わさることで発生します。
- タイヤの摩耗
- スピードの出しすぎ
- 空気圧の不足
各要因について、それぞれ見ていきましょう。
タイヤの摩耗
タイヤの溝や切り込みは、「排水性能」「駆動力・制動力の確保」「操縦安定性・放熱性の向上」といった車両の安全性を担っています。溝が摩耗すると、これらの性能が低下してしまいます。
特に、摩耗による排水性能(路面の間の水をかき出す力)の低下は、ハイドロプレーニング現象の主な原因の一つです。溝が浅くなると、タイヤが路面の水を効率的に排出できなくなり、水膜の上に浮きやすくなってしまうことが、試験によって確認されています。
| 溝深さ | 路面とタイヤの接地面 | 接地面の様子 |
| 7.1mm (新品) |
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| 3.5mm (50%摩耗) |
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| 1.6mm (使用限界) |
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〔テスト条件〕
2011年6月19日ブリヂストンによるテスト。タイヤサイズ:185/60R15 84H
テスト車両:フォルクスワーゲン ポロ(H22年式DBA-6RCBZ)
場所:ブリヂストンプルービンググラウンド、水深:6mm、速度:80km/h
スピードの出しすぎ
ハイドロプレーニング現象はスピードが上がるほど発生しやすくなります。
スピードが上がると時間あたりに踏み込む水の量も増えます。この水の量が、排出できる量の限界を超えると、路面とタイヤの間に水膜が残り、ハイドロプレーニング現象を引き起こすのです。これは新品のタイヤであっても同様です。
ブリヂストンが実施した試験では、新品のタイヤでも走行速度60km程度ではほぼ完全に接地していました。しかし、80km程度になると一部が浮き、100km程度になると、ほとんど浮いた状態になることが確認されています。また、溝が浅いほうがより低い速度で発生するため、摩耗したタイヤではさらに注意が必要です。
走行スピードがハイドロプレーニング現象に影響する原理としては、氷上スキーに近い現象として理解できるでしょう。高速になると水の圧力で水の上にスキー板が乗る現象に似ており、速度と水圧の関係が重要な要素となるのです。
空気圧の不足
タイヤの空気圧は、適正な空気圧が充てんされて、はじめて十分な性能を発揮します。空気圧が不足すると、タイヤの形状が変化し、接地面積や接地圧を保てなくなります。トレッド面(接地部)が路面にしっかりと接触しないと、タイヤ本来の排水性能やグリップ力を発揮できません。
ハイドロプレーニング現象を防ぐには
ハイドロプレーニング現象は突然発生するように見えますが、実際には予防可能な要因によって起こることがほとんどです。以下のような対策を取り入れることで、リスクを大幅に軽減できます。
- 定期的に溝深さをチェックする
- 雨の日は特にスピードを出しすぎない
- 適正空気圧を保つ
- ウェット性能に優れたタイヤへ交換する
ここでは、上記のポイントを詳しく解説します。
定期的に溝深さをチェックする
ハイドロプレーニング現象は、新品タイヤでもスピードを上げていくごとに発生しやすくなりますが、溝が浅いタイヤはより遅い速度でも発生します。そのため、定期的に溝の深さをチェックすることが大切です。
具体的には、どのくらい溝が残っているか、目立った偏摩耗がないかを確認しましょう。残り溝の法定限度は1.6mm以上ですが、先ほどご紹介した試験結果のとおり、1.6mmの段階ではほとんどタイヤが浮いてしまいます。実際に濡れた路面での制動距離は、残り溝が4mmを下回ったあたりから急激に長くなる傾向が確認されています。そのため、安全上の観点では性能が著しく落ちる前の残り溝4mm以上での交換がおすすめです。
スタッドレスタイヤについては、氷雪路での安全性をふまえて、新品タイヤから50%の摩耗を迎えた時点での交換が望ましいとされています。
また、溝の深さだけでなく、摩耗の均一性も確認すべきポイントです。溝の減り方が不均一なタイヤは排水性能に影響するため、速やかに交換しましょう。
タイヤの溝深さについては、以下の記事で詳しく解説しています。

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雨の日は特にスピードを出しすぎない
雨の日の運転は、滑りやすく視界も悪いため、晴天時よりも事故のリスクが高まります。
首都高ドライバーズサイトのデータによると、雨天時の首都高では1時間あたりの道路施設への接触事故件数が晴天時の約7倍にのぼり、死傷事故件数も約4倍に増加しています。
また、雨天時の道路施設への接触事故を速度別に見てみると、60km/h以上での走行が全体の58.5%を占めており、走行スピードがスリップ事故に直結していることが示されています。これらのデータからも分かるように、雨天時は晴天時以上に慎重な運転を心がけることが大切です。
具体的には、以下のような点を意識しましょう。
- 雨の日の路面状態の特徴を理解しておく(雨の降り始めは滑りやすい、特に白線・鉄板は滑りやすい、水深の深いわだち路の走行に注意)
- スピードを控える
- 車間距離を十分にとる
- 急ハンドルや急ブレーキといった急な運転操作を避ける
- 視界を良好に保つ(昼間のヘッドライト点灯、ワイパーの速度調整、くもり止めの使用など)
- 周囲の安全確認をしっかり行う
適正空気圧を保つ
空気圧が不足していると、トレッド面(接地部)が路面にしっかりと接触しないため、排水性やグリップ力が低下します。タイヤの変形が大きくなることで、設計された排水溝の機能が十分に発揮されず、結果的にハイドロプレーニング現象のリスクが高まってしまいます。
空気圧は走行していなくても自然に抜けていくものなので、最低でも月に一度は点検・充てんを行いましょう。適正空気圧は、運転席側のドア付近や給油口に貼付された空気圧表示シールに書かれています。ただし、インチアップなどで純正とは異なるサイズを装着している場合は、この限りではありません。

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ウェット性能に優れたタイヤへ交換する
タイヤには多くの種類があり、その中には濡れた路面での安全性を重視して設計されたものもあります。雨天時の走行安全性や不安の軽減を考えるなら、タイヤ選びの際に「ウェット性能」を確認しましょう。
例えば、ブリヂストンのPlayzは「雨に強い、長く強い。疲れにくいだけじゃない」をブランドコンセプトとし、雨の日の走行を安全かつ快適にサポートする製品です。路面状況の影響を受けて無意識に行うハンドル操作のストレスを低減させるために、タイヤサイド部のIN側とOUT側で異なる「非対称形状」を採用しています。
また、溝の摩耗により排水性能が低下することを踏まえ、接地形状の最適化とシリカを配合したウェット重視ゴムを組み合わせました。この溝に頼らないウェット性能の強化により、新品時から摩耗時まで高い排水性を維持できる設計となっています。摩耗が進んでもウェット性能が落ちにくく、雨天時のドライブをより安心にサポートします。
そのほか、ブリヂストンではPlayz以外にもウェット性能にこだわったタイヤを多数展開しており、車両や用途、走行環境に合わせた選択が可能です。
実際のタイヤ選びでは、ウェット性能だけでなく、車種による走行特性や快適性、低燃費性、走行路面の状況などを総合的に考慮することが重要ですが、ブリヂストンなら幅広い選択肢から最適な1本を選べます。

乗用車用タイヤの選び方
乗用車用タイヤの選び方を詳しく解説します。
ハイドロプレーニング現象が起こったときの対処法
ハイドロプレーニング現象は、どれだけ予防策を講じていても、悪天候や予期せぬ路面状況によって発生する可能性があります。万が一に備え、落ち着いて対応できるよう、適切な対処法を身につけておくことが重要です。
慌てずに、以下の手順で対処します。
- ハンドルをしっかりと握り、アクセルから足を離す
焦ってハンドルを切ったり急ブレーキをかけたりするのは危険なので、ハンドルをしっかり握り、ゆっくりとアクセルから足を離しましょう。 - 可能な限り直線を保ち、グリップ力が回復したらブレーキを踏む
ハンドルを大きく切ると車体のバランスを崩しやすくなるため、グリップ力が回復するまで、そのまま可能な限り直線を保ちましょう。グリップ力が回復したら、ゆっくりとブレーキを踏んで減速します。 - 安全な場所に停車する
ご自身や周りに影響を及ぼさない安全な場所に停車し、心を落ち着かせましょう。
ハイドロプレーニング現象とスタンディングウェーブ現象の違い
タイヤに関する現象として、ハイドロプレーニング現象のほかに「スタンディングウェーブ現象」があります。
ハイドロプレーニング現象は、水膜によってタイヤが浮いてしまう現象です。対して、スタンディングウェーブ現象は、タイヤの側面が波打つように変形する現象で、バースト(破裂)を引き起こす原因になります。
この2つの現象は全く異なるものですが、その危険性や原因には共通点があります。いずれもタイヤの空気圧不足や高速走行時に発生しやすく、タイヤの接地状態が不安定になることでハンドルやブレーキ操作に影響を及ぼし、事故の危険性を高めるのです。
どちらの現象も、適切なタイヤメンテナンスと安全運転によって予防が可能です。

スタンディングウェーブ現象とは?原因や対策を解説
スタンディングウェーブ現象の原因と具体的な対策を紹介します。
まとめ
ハイドロプレーニング現象は、高速走行時に起こりやすく、ハンドル・ブレーキ操作が効かなくなる危険な現象です。その原因には「タイヤの摩耗」「走行スピード」「空気圧」が関係していますが、これらはいずれも日々の点検や安全運転によって防げます。
定期的な溝深さや空気圧のチェック、雨天時の滑りやすさや視界の悪さを意識した運転を行えば、リスクを大幅に減らせるでしょう。また、ウェット性能に優れたタイヤへ交換するのも効果的な予防策の一つです。
ブリヂストンなら、ウェット性能にこだわったタイヤを含め、さまざまなタイヤをラインナップしています。オンラインストアから、車種や希望する走行性能に最適なタイヤをお選びいただけます。交換後の点検もお任せください。






















