2023年12月6日、筑波サーキット コース2000には、名だたるチューナーが経験とノウハウを注ぎ込んだマシンがずらりと顔を揃え、タイムアタック・イベント“REV SPEED 筑波スーパーバトル2023”が開催された。POTENZAのストリートラジアルを味方につけ、各地のサーキットで確かな結果を残すべく挑み続けてきた「POTENZA CIRCUIT ATTACK!(PCA!)」は、この筑波スーパーバトルで好タイムをマークすることも目標にしている。
今回は2015年のプロジェクトスタート時から毎年のように記録を塗り替えてきたPCA 86のほか、2021年から投入されたPCA GR YARIS、そして昨年デビューしたPCA Fairlady Zの合計3台がエントリー。PCA 86とPCA Fairlady Zは蒲生尚弥選手がステアリングを握り、PCA GR YARISは佐々木雅弘選手の手にゆだねられた。
午前中の降雨のため、残念ながら最終走行となる午後のセッションのみのアタックとなり、それぞれのベストタイムを更新することは叶わなかったが、各車は装着した「POTENZA RE-12D TYPE A」の優れたグリップ力を印象づける走りを披露。そして、3台それぞれに与えられた新たな“仕様”に手応えを感じ、これからのPCAの活躍に大きく期待が膨らむ一日となったのである。
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タイヤサイズ、エアロ、CNF、
新たな挑戦で進むべき道を探る。
今年のチャレンジは、なにかが違う。プロフェッショナルの手際の良い準備を目で追いながら、不思議とそんな雰囲気に包まれる。用意された車両は3台。PCA Fairlady ZとPCA GR YARISは昨年もアタックを行い、PCA 86は2年ぶりの走行になるとはいえ筑波スーパーバトルの常連である。いずれも新たに投入されたわけではない。しかし3台のマシンには、それぞれ重要なタスクが与えられていた。さらに前へと歩みを進めるために、”新たな仕様”の可能性を見極めるという課題である。もちろんベストタイムの更新が最も大きな目標であることに変わりはないが、それを含め新たなチャレンジに対する期待感がチーム全体に漂う。
さて、なにが変わったのか。まずはPCA 86。筑波をはじめ鈴鹿、富士、岡山、オートポリスなど各地のサーキットで目覚ましい活躍を見せてきたマシンが、その先のステージへ進むために着手したのはタイヤサイズの変更である。これまでは265/35R18サイズの「POTENZA RE-12D TYPE A」を装着していたが、今回の筑波スーパーバトルでは295/30R18をチョイス。さらなるグリップ力を味方につけて、タイムアップを狙う。スーパーチャージャーで武装し600psを超える強心臓が与えられたPCA 86だからこその進化と言えるが、まずはタイヤサイズだけの変更にとどめ変化を確認。その結果をもとに、足回り等のセッティングを煮詰めていくという。
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そして、昨年はこのイベントがシェイクダウンという状態だったPCA Fairlady Z。コースコンディションがいまひとつだったにもかかわらず1分1秒台を記録しポテンシャルの高さを見せつけたが、ノーマルの405psから150ps以上のパワーアップを実現したV6ターボエンジンや足回りのスペックに大きな変更はない。見どころはエアロパーツの投入にある。VARIS ARISING-1のフルキットとスワンネックのGTウイングをまとい、空力特性を大幅に向上。さらにカーボンクーリングボンネットは軽量化にも貢献している。 ボディパーツの装着によって精悍さの増したPCA Fairlady Zだが、それがどのような効果を生み出すのがポイントとなる。
一方、驚かされたのがPCA GR YARISだ。バネレートを上げるなど足回りを変更しているが、それだけではない。このマシンならではのチャレンジとして注目されるのが、給油口の”CNF”ステッカーが示す通り、カーボンニュートラルフューエルを使用していることなのである。製造過程で二酸化炭素の排出量を減らせる合成燃料 CNFを用いることで、モータースポーツの新たな楽しみ方を模索する取り組みだが、通常のガソリンと同等のパワーを発揮させるため、PCA!の各マシンの開発を手がけるAUTO PRODUCE BOSSの藤岡代表が、燃料に合わせてECUをセッティング。本格的なタイムアタックのなかで、どのようなパフォーマンスを見せるのか興味深い。
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しかし、今年も天気に恵まれなかった。昨年は早朝からの濃霧でグッドコンディションで走行することができなかったが、2023年のタイムアタックは、それ以上に厳しい状況となる。夜明け前に雨が降り出し、1回目のセッションがスタートする午前8時前にはやんだものの路面はウェット。スケジュールはキャンセルされフリー走行時間となった。次のアタックが始まる10時50分になっても路面の乾きは遅く、まだまだ望むようなタイムを引き出せるコースコンディションには至らない。PCA!チームの3台は、このセッションへの出走も諦め、午後1時40分から始まる最終セッションに勝負をかけることに決めた。
ドライ路面であることを最優先したわけだが、午後の走行ゆえ気温が上がるのは致し方ないこと。1時30分には気温が17.7℃、路温は22.5℃に達した。そんななか、最初のグループで走行したPCA 86は57秒640をマーク。続いてコースインしたPCA Fairlady Zは1分00秒598を記録し、PCA GR YARISが1分00秒827で締めくくる。いずれもパーソナルベストには届かなかったものの、PCA Fairlady ZとPCA GR YARISは昨年のタイムを塗り替えた。PCA 86もイメージしていた走りを披露し、セッティングの方向性を探ることができた。厳しいコンディションにおいても、3台が進むべき道筋を確かめられたのは大きな収穫だ。さらなる高みを目指す「POTENZA CIRCUIT ATTACK」の取り組みに、今後も注目していただきたい。
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オープンクラス FR部門
PCA 86
タイヤ: POTENZA RE-12D TYPE A 295/30R18 - Best Lap
57'640
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ストリートRRクラス FR1部門
PCA Fairlady Z
タイヤ: POTENZA RE-12D TYPE A 285/35R19 - Best Lap
1'00.598
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ストリートRRクラス 4WD部門
PCA GR YARIS
タイヤ: POTENZA RE-12D TYPE A 265/35R18 - Best Lap
1'00'827
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佐々木雅弘選手
PCA GR YARISの燃料にCNFを使用してアタックしました。クルマ好きとしてさまざまな楽しみ方をしてきましたし、いろいろな提案も行っていますが、そんなクルマ趣味を途絶えさせることなく、さらに盛り上げていくには環境に配慮した取り組みも必要なのではないかと考えています。CNFはSUPER GTやスーパー耐久をはじめとして、すでにモータースポーツへ導入されていますが、ならば市販車をベースにしたアタックマシンで使ったらどうなるのかという部分は未知数でした。そこでECUチューンのオーソリティであるAUTO PRODUCE BOSSの藤岡代表に、PCA GR YARISのセッティングをお願いしました。ノウハウを投入していただいたおかげで、気温が上がるなか1分00秒台のタイムが出せましたが、タイムアタックはエントラントみんなが熱くなって真剣にタイムを競う合う場ですから、通常の燃料に遜色ないパフォーマンスを披露できたのはうれしいですね。同時に幅広いモータースポーツにおける新たな可能性を示せたのではないかと思います。足回りについてはとても回頭性のいい4駆スポーツに仕上がっています。GR YARISは後輪の温まり方が若干遅いのですが、「POTENZA RE-12D TYPE A」は温まりが早く、また冷えていても高いグリップがあるのですぐにアタックできます。しかもコントロール性能に優れ、限界領域で粘ってくれるのも大きな魅力ですね。
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蒲生尚弥選手
2台のアタックを担当しましたが、今回のコンディションにおいては今後につながる結果を残せたのではないかと思っています。PCA 86は265/35R18から295/30R18へと「POTENZA RE-12D TYPE A」のサイズを変更しました。当然グリップ力が上がるのでコーナリング性能はアップしますし、ブレーキングにも影響します。とくに筑波サーキットでは縦グリップをしっかり使うブレーキングと、コーナー脱出後のトラクションのかけやすさに差が出てくるだろうとイメージしていました。そんな違いに自分自身の走りをどうアジャストいくかが、今回の課題だと考えながらアタックしましたが、「RE-12D TYPE A」は想像していたとおりのさらなるグリップを発揮してくれ、タイヤ幅が増したことのネガは感じませんでした。サイズに合わせて足回りのセッティングを煮詰め、その変化にドライビングを合わせ、「RE-12D TYPE A」のグリップを最大限に引き出すことができれば、素晴らしい結果が待っているはずだとワクワクしています。一方、PCA Fairlady Zにも大きな変化を感じました。GTウイングとリップスポイラーを装着した状態で走行したことはあったのですが、カナード等を装着してからは初めての走行で、空力特性の向上を実感しました。最終コーナーではフロントの入りがかなり良くなりましたね。「POTENZA RE-12D TYPE A」の優れたグリップ力と扱いやすさを引き出すためにも、空力の改善は大きな効果があったと思います。
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藤岡和広氏
PCA 86は、「POTENZA RE-12D TYPE A」のサイズを295/30R18へ変更しました。ホイールサイズは10J×18のままですし、そのほかの変更は一切ありません。ここからが新たなスタートと考えていますが、今日は蒲生選手が初めての走行で、しかも1本だけのアタックでしたから、結果についてはまだまだ満足のいくものではありません。それでも蒲生選手の感触は良かったようですので、タイムアップのための新しい要素が増え、一歩前に進むことができました。条件が整えば55秒台も見えてくるのではないかと期待しています。PCA Fairlady Zは、エアロの装着とボンネット、マフラーの交換による軽量化を行いました。足回りは昨年の筑波スーパーバトルの時点より少し硬めのセッティングを施しています。目標は59秒台でしたが、今回のコースコンディションでは、その効果を十分に確認できたと思います。パワーアップに関してはまだ余地があるので、今後はそのあたりの進化も含め完成度を高めていくことになるでしょう。PCA GR YARISは、カーボンニュートラルフューエルで走らせたことが最大のトピックです。それに合わせてECUのセッティングを行いましたが、この条件下では十分な結果を残せたと思います。CNFはオクタン価が少し下がるので点火時期等を調整する必要があるなど、通常の燃料と同等のパワーを絞り出すのはそう簡単なことではありません。それでもここまで突き詰めることができたのは良かったですね。改良を積み重ねて59秒台のタイムが出せればと考えています。この3台のほかにも、来年の筑波スーパーバトルに向けて、GR86のタイムアタック車両の開発を進めていく計画です。PCA 86のような活躍を想定して製作し、ターボチャージャーによるスープアップを考えています。これまで通り「POTENZA」を武器にして走れば、結果はおのずと手に入れることができると思います。今後のPCA!の活動も楽しみにしてください。
目を見張るパフォーマンスを発揮した
POTENZA装着車両
サーキットイベントでもその優れたパフォーマンスでマシンの走りをしっかりとサポートする“POTENZA”のハイグリップラジアル。REV SPEED 筑波スーパーバトル2023には、PCA!の各マシンのほかにもPOTENZA装着車両が参加した。ここではその中からPOTENZA RE-71RS、そしてサーキットアタックで優れた性能を発揮する POTENZA RE-12D TYPE A、GR86/BRZ Cupで大活躍したPOTENZA RE-09D を装着した6台のマシンをピックアップし、POTENZAユーザーのコメントも紹介する。
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- CUSCO
ストリートクラス RRタイヤ 4WD部門
TOYOTA GR COROLLA
タイヤ:POTENZA RE-12D TYPE A 285/35R19 - Best Lap
1'01.373
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クスコ市販パーツの投入により
期待以上の1分1秒台を記録!
モリゾウエディションをベースに、クスコ製の足回りや剛性アップパーツを使用してチューン。あえて尖ったところを狙わず、走りを楽しみたいオーナーが真似しやすい内容にまとめている。昨年デビュー時の仕様からの違いはブーストアップ。今回の走行ではPOTENZA RE-71RSと、POTEZA RE-12D TYPE Aの18インチと19インチをそれぞれテストした。長瀬代表はPOTENZA RE-71RSについては「ドライでもウェットでも、街乗りもサーキットもこのタイヤだけで楽しめる」とのこと。また、POTEZA RE-12D TYPE Aについては、「1分2秒台前半を狙っていたが、予想以上の結果を出せた」とその性能に感心しきり。
- Rush Factory
ストリートEVOクラス SRタイヤ 4WD部門
NISSAN GT-R
タイヤ: POTENZA RE-71RS 285/35R20 - Best Lap
56.904
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ハイパワーなのに街乗りも快適
前回走行タイムをさらに更新
700psを発揮するハイパワーだが、足回りにもこだわりが込められており、さまざまなサーキットでセッティングを変えることなく楽しめる仕様が与えられている。コース2000でのテスト走行では56秒388を記録したそうで、スーパーバトル本番でも同等のタイムを狙った。今村代表はPOTENZA RE-71RSについて「アンダーステアやオーバーステアなどの挙動が分かりやすいタイヤ」と印象を語る。「それによってステアリング操作の調整しやすいことが、ドライビングスキルの早い上達にもつながる」と教えてくれた。結果は56.904で、2021年の記録を上回るタイム。ベストな気温でアタックできなかったことを考慮すると十分に力を発揮できたと、満足のいく結果だったようだ。
- ings
ストリートクラス RRタイヤ FR2部門
TOYOTA GR86
タイヤ: POTENZA RE-12D TYPE A 265/35R18 - Best Lap
1’02.609
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パフォーマンスを底上げする
フルエアロでタイムアップ
ings開発のフルエアロ、N-SPEC Rを装着したほかは、足回りと排気系のチューンのみ。ポテンシャルの高さをそのまま引き上げる仕様で、エアロ装着だけでタイムアップが確実だと言う。筑波スーパーバトルでの走行は初めてながら、テスト走行ですでに1分2秒台を叩き出した。さらに1分1秒台を狙いたいと山野代表。POTENZA RE-12D TYPE Aについては「グリップがしっかりしていて、タイムが出せる。しかも乗りやすさもある」と教えてくれた。最終走行ではノーマルデフの空転が見られたようで、1’02.609という記録となったが、来年はデフを交換するなどさらにきめ細かくブラッシュアップをする予定だという。
- SWACKER
ストリートLIGHTクラス RRタイヤ FR2部門
TOYOTA GR 86
タイヤ:POTENZA RE-12D TYPE A 235/40R18 - Best Lap
1'03.384
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街乗り優先のライトチューンと
RE-12D TYPE Aが相性良し!
深見代表が普段乗りにも使っている車両で、ストリートでの乗りやすさを優先したGR86。足回りの挙動が分かりやすいということもあり、車高は下げすぎないのがセッティングのポイントとのこと。POTENZA RE-12D TYPE Aについて「温まるのが早くグリップ力が高い。そして剛性の高さに合わせてバネレートを変更。足回りのトータルバランスを整えることがタイムアップに繋がる」と説明してくれた。まだ仕上げたばかりで、参考タイムを出すテストを兼ねた出走だったそうだが、十分に満足のいく結果だったと言う。「方向性が正しいことは確かめられた。気温など条件が整えば、さらに上のタイムが狙えそう」と手応えを感じていた。
- CUSCO
ストリートクラス RRタイヤ FF3部門
SUZUKI SWIFT SPORT
タイヤ:POTENZA RE-09D 215/45R17 - Best Lap
1'04.561
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AT車両でMT並みのタイム
高剛性タイヤと好マッチング
街乗りからサーキットまで、エア圧を調整するだけで幅広いシチュエーションに対応できる仕様。AT車だが、MT車並みのタイムを目指している。ドライビングした山田英二選手はPOTENZA RE-09Dでは初めての走行だったそうだが、剛性の高さを実感したと言う。「車重が軽いのに、高い剛性のおかげでしっかりした接地感があった。キビキビ動いてくれてタイムも出しやすい。エンジンパワーをロスしにくい適度な剛性で、自分の好みともマッチングがいい」と印象を語る。車両の素直な動きとタイヤの優れたグリップで思い通りに走行できたそう。「ギアやエンジンブレーキがサーキットでは不利なATでも、満足のいくタイムが出せた」と話してくれた。
- SWACKER
ストリートクラス RRタイヤ FF3部門
SUZUKI SWIFT SPORT
タイヤ:POTENZA RE-09D 215/45R17 - Best Lap
1'03.600
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FF車+RE-09Dのさらなる可能性
セッティングに磨きをかけて次にも期待
街乗りの快適性とサーキットの速さを両立できる足回りを目指して、セッティングに力を入れた。井口卓人選手は、POTENZA RE-09Dについて「温まってからのグリップが驚くほど高い。また、一発だけのパフォーマンスではなく周回数をこなせるので、温まり方に応じて前後のタイヤを入れ替えるなど、FF車でもサーキット走行における可能性が広がりそう」と教えてくれた。残念ながら、エンジン制御のトラブルによりフルパワーでの走行が叶わなかった。深見代表は不具合を直し、さらなる磨きをかけて次は1分2秒台前半を狙いたいと新たな目標を掲げた。井口選手は「FF車でもよく曲がる仕上がりで、今後本調子で走行するのが楽しみ」と次のチャレンジに期待を込めた。