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Formula Drift JAPAN 2023 Report
Rd.1 SUZUKA TWIN CIRCUIT 4/22~23/2023
草場佑介が挑む新たなチャレンジ
予選3位から始まる2023開幕戦
草場佑介選手は誰もが認める実力派ドライバーのひとりだ。精密なマシンコントロールでクレバーなドリフトを得意とする。
ドリフトドライバーというと、破天荒なイメージが強い選手が多く、多少飛び出そうがぶつかろうが、ワイルドに立ち上がってくる。そんなイメージのドライバーも少なくない。
しかし、彼のキャラクターはその真逆なのだ。
普段は物静かでピットではほぼいつもドリフト映像をチェックしている。
そんなときでもファンが訪れれば溢れんばかりの笑顔で迎え、記念撮影はいつも笑顔を絶やさず、にっこりとした草場スマイルでファンサービスに応じる。子供たちには自然に話しかけ「バイバーイ」と手を振る。
一見、パーフェクトに見えるドライバーだが、そんな彼にも苦悩があった。
「正直、これまではただのちょっと上手いだけのドライバーだったと思います。アングルもラインも技術的にはトップ選手たちに劣っていない。でも、勝ちきれない。技術的な部分だけでは"ちょっと上手いだけ”のドライバーなんです」
これまでも上位に進出することは幾度となくあったものの、観客の記憶に残るような走りや、ライバルを驚愕させるような走りはなかった。技術も速さも申し分ない。しかし、その先を彼は追い求めていた。
「今シーズンはスタイルの得点にこだわりたい」
そのためにチャレンジしたのが新たな空気圧セッティングとタイヤの使い方だ。
ドリフト創生期には、リアタイヤを滑りやすくするために空気圧を高めて接地面積を減らしたり、リアに細いタイヤやスタッドレスタイヤを履かせるなどの小技がドリフト小僧たちの定番だった。
その後、競技ドリフトが日本で生まれてからも、ドリフト中に”戻る”(リアタイヤがグリップを回復する)ことを防ぐために、リアタイヤのグリップを落とす手法が定番だった。
しかし、ドリフト競技が成熟してくるにつれて、セッティングは逆方向にシフトしてきている。つまりリアタイヤのグリップを上げる方向になったのだ。滑らせることは難しくなるが、より高い速度域、かつより深いアングルでのドリフトが可能になった。
そうなるとドリフトは継続しにくくなるため、さらなるエンジンパワーが求められた。 結果、2Lクラスのエンジンでは非力になり、トヨタ車の2Jエンジン(3.0L+ターボ)をあらゆる車種に搭載するようになった。今では、マシンパワーは800~1200psが主流だ。
草場選手のマシンも2Jフルチューンだからパワーは申し分ない。そして、そのハイパワーマシンを支えるタイヤはPOTENZA RE-71RS、ホイールはPOTENZA RW007だ。これまでの草場選手のセッティングは、グリップを落とすためにわずかに空気圧を高めにセットしていることが多かった。
「空気圧は下げた方がグリップ力は上がる傾向にあるのですが、グリップ力が高ければ、もっと深い角度と高い速度でドリフトができるようになります。しかし、高いグリップ力によってドリフトが戻ってしまうリスクも高くなります。とくに強力なグリップを発生させるRE-71RSの場合はグリップしてしまうリスクを考慮する必要がありました」
しかし、開幕戦の草場選手は練習走行から、これまでよりも低い空気圧を選択した。
「もっと深い角度で飛び込んでいきたい。そこにスタイルが評価されるポイントがあると思います。あと数点を求めてチャレンジを続けていきたい」
そのために草葉選手はあえて昨年からマシンのアップデートを行わなかった。マシンがハイパワーになればなるほど簡単に走らせることはできないし、エンジンやミッション、駆動系パーツの消耗も早くなる。
また、フォーミュラDジャパンでは練習走行は12本までに制限されているから、確認作業とドライビングに慣れる作業で練習走行が終わってしまい新たなスタイルにチャレンジするところまで行き着かない。そこであえて今シーズンは昨年と変わらぬ仕様で挑んだというわけだ。
練習走行で新たな空気圧セットとドライビングにトライし、手応えを得た草場選手は予選で躍進を見せる。RUN2では89点(ライン25点、アングル28点、スタイル36点)をマークして全体で2位。RUN1の結果によって総合順位は3位となったが、トップクラスの得点をマークしたのだ。
決勝トーナメントTOP32の対アンドリュー・グレイ戦は壮絶な勝負となった。互いに譲らずアグレッシブなスタイルを繰り出し、1本目のチェイスではマシントラブルの起きたグレイ選手に草場選手が接触するほどの熱い接近戦を魅せた。チームクスコによる5分間の修復を経て復帰すると、そこからワンモアタイムを2回。結果、草場選手の勝利となった。
過去4度シリーズチャンピオンを獲得しているグレイ選手に対して、何度走っても一歩も引かない姿勢には、草場選手の強い信念が感じられた。今大会2度のワンモアタイムは最長であり、名勝負といえる熱い戦いだった。
今回はTOP16での敗退となったが、彼のスタイルはこれまでのクレバーで美しい走りから、熱いパッションに満ちたものへと変わりつつある。
「チームとしては予選で1位から3位までを独占し、チームメイトの#771箕輪大也選手が優勝、#774松山北斗選手が3位に入賞という好成績を収めたことは強い刺激になりました」
彼には、チャレンジを支えるRE-71RSとRW007がある。
「あと数点。スタイルポイントの数点にこだわり、今シーズンはそこを求めたい」
次戦は5月20-21日、福島県のエビスサーキット西コースで行われる。