Motor Sports / Time Attack > TOYOTA GR86/BRZ Race 2022 Report > GR86/BRZ Cup 2022開幕戦でPOTENZA RE-08Dがデビュー
Vol.01
TOYOTA 86とSUBARU BRZが新型になったことで、2013年にスタートした86/BRZ Raceは生まれ変わりました。レース名称は「TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup」となり、富士スピードウェイで開幕しました。
車両が新型GR86/BRZにスイッチし、レギュレーションにも手が入れられ、プロフェッショナルシリーズでは、ダンパーやマフラーなど使用できるパーツの幅が広がりました。さらにタイヤサイズが205/55R16から215/45R17に変更になりました。
POTENZAは、GR86/BRZ CupプロフェッショナルシリーズのためにPOTENZA RE-08Dを新規投入。排気量アップにともなって出力が向上した新型86/BRZに対して、17インチのニュータイヤRE-08Dがどんなパフォーマンスを見せてくれるのかに注目が集まりました。
迎えた開幕戦の予選は雨、多くのRE-08D装着ドライバーは思うようにタイムを伸ばせず苦しい結果となりました。しかしドライコンディションとなった翌日の決勝では、予選12位のNo.18 中山雄一選手(POTENZA)が6位入賞、8位にNo.160 吉田広樹選手、9位にNo.7 堤 優威選手、10位にNo.34 佐々木雅弘選手と、ほとんどの選手がポジションを大きく上げて、RE-08Dのドライでの安定したポテンシャルを証明してくれました。
今回は、POTENZAの開発ドライバーを務める佐々木雅弘選手と開発チームのメンバーに、RE-08Dの性能、そして開発に込められた想いについてお話を伺いました。
多くのモータースポーツファンが待ちわびていたGR86/BRZ Cupがついに開幕しました。
このレースとニューマシンの魅力についてPOTENZA開発ドライバーの佐々木選手に聞きました。
「昨年までの86/BRZレースも、競技として十分に魅力の詰まったレースでした。そしてGR86/BRZ Cupでは、ダンパーやマフラーといったパーツが自由に選べるようになったことで、レースやサーキット走行を楽しむドライバーといったこれまでのファン層だけにとどまらず、ストリートで車のカスタマイズを楽しんでいる方にも興味を持ってもらえるワンメイクレースになったと思います。これまで以上に多くの人たちに注目してもらえると期待しています。
個人的には、排気量が増したことで、特に低速でのトルクが上がった点と、マフラーを交換できるようになったことで、音というクルマ好き・モータースポーツ好きにとって重要な要素が、より楽しめるようになった点が嬉しいですね。また、パーツの選択肢が拡がったことで、セッティングにも深みが出てきた点も楽しみな部分です。」
佐々木選手がポイントのひとつとしてあげるマシン出力の向上にあわせて、GR86/BRZ Cupではタイヤサイズが16インチから17インチへと変更されました。
サイズは17インチのPOTENZA RE-08Dですが、開発は、16インチタイヤRE-07Dをベンチマークとしてスタートしたといいます。
「昨年まで使用していたPOTENZA RE-07Dは、86/BRZレースという舞台で、開発に長い時間をかけて熟成された最高の16インチタイヤでした。RE-07Dは16インチでありながらも、まるで18インチのようなグリップを感じられるような優れた性能を持っていました。個人的には、16インチのタイヤでRE-07D以上のパフォーマンスを発揮するタイヤは他にないと思っています。ですのでRE-08Dの開発では、RE-07Dの完成されたタイヤの構造とゴムとパターンのバランスを単純にインチアップするだけというわけにはいかない難しさがありました。
タイヤサイズが17インチになるとハイトが低くなった分、タイヤの表面に対してダイレクトに力がかかるスピードがより速くなってきます。このことにしっかりと対応できる構造とゴムとパターンのバランスを探る作業は、本当に大変でしたね。」
215/45R17というパッケージの中で、マシンのパフォーマンスを最大限に引き出すために、タイヤの「構造」と「ゴム」と「パターン」のバランスを再度構築していくという開発プロセスの中で、佐々木選手は特に「パターン」をポイントとして上げてくれました。
「構造とゴムという2つの要素によって構成されるスリックタイヤと違って、特にラジアルタイヤであるRE-08Dの開発では、タイヤの溝=パターンという3つ目の要素が重要になってきます。3つの要素のうち、どれかひとつでも欠けていれば、それは乗りにくいタイヤということになってしまうので、バランスはもちろん重要なのですが、この溝つきタイヤ特有のパターンという部分はドライバーがステアリングを切る際にどこに重きを置いてるかという点まで考慮しなくてはなりません。僕は、この溝つきタイヤ特有の課題に難しさを感じますし、同時に非常に面白いとも感じています。」
また開発チームの中田さんは、タイヤのサイズ変更という課題に加えて、開発では新型GR86/BRZのパフォーマンスをいかに引き出していくかという点が重要だったと言います。
「タイヤのサイズが変わっただけでなく、マシン自体の出力や重量なども変化しているので、タイヤの横方向の剛性など、我々の想定以上に性能向上が必要とされる部分があることが開発でわかってきました。さらに、車両の性能を最大限に発揮させるためのスイートスポットを探すという部分にも難しさがありました。この点に関しては、これからもさらなる努力が必要だと感じています。」
サイズが変わり、ゼロからの開発となったRE-08Dですが、これまでの86/BRZ Raceでドライバーたちの走りを支えてきた歴代POTENZAタイヤが持っていた強みも、しっかりと継承されているといいます。
「タイヤに一番負荷がかかった状態から、より早く元に戻ることでしっかりとトルクを発揮する構造の強さ、そして、ステアリングを切った際にドライバーが次にどうすれば良いのかをしっかりと伝えてくれるコントロール性の高さは、RE-07D、RE-12D、POTENZA RE-71RS、そしてRE-08にまで継承されているPOTENZAタイヤの強みだと思います。」
佐々木選手が語るPOTENZAの扱いやすさという強みは、一般のPOTENZAユーザーのためにも、とても重要な要素になってくると言うのは開発チームの加藤さん。
「速さを求めるプロドライバーにとっての扱いやすさが、一般ユーザーにとっては運転の楽しさにつながると思っています。POTENZAとして速さを追求するのは当然なのですが、クルマを走らせる喜びに直結する扱いやすさという点は、これまでも、そしてこれからも、我々が市販タイヤにフィードバックし続けていかなければならない点だと思います。」
限られた時間のなかでRE-08Dの開発を終えたばかりの佐々木選手ですが、その目は、すでに未来を見ていました。
「開幕までに、僕たちは最大限の努力を重ねてきました。しかし、気温や路面などのさまざまな状況・条件を100%クリアしてきたわけではありませんし、まだまだやらなくてはならないことがあります。レースは勝負の世界ですので、勝つための努力は常に必要です。そして、勝つために必要とされるタイヤへの要求も、開発チームの一員として、どんどんフィードバックしていきます。これからもGR86/BRZ Cupから得たデータやヒントを開発に活かして、進化を止めることなく、速いタイヤ、勝てるタイヤを目指して頑張っていきたいと思います。」
佐々木選手の速さと勝負への熱い想いに応えるように、タイヤ開発チームの加藤さんが続けます。
「サイズが変わったことで、RE-08Dの開発では手探りな部分もありました。しかし、開幕戦を終えて、今はその現在地をはっきりと捉えることができました。現時点での答え合わせをしっかりとして、アップデートすべきところをしっかりと見定め、GR86/BRZ Cupで集めたデータを元に努力を重ねていきたいと思います。」
タイヤ開発チームの中田さんも、高次元の走りを見せるプロドライバーたちから、直接コメントを聞くことができるレースという特殊な場での開発のメリットを強調します。
「開幕戦では、ウェットとなった練習走行と予選、そしてドライの決勝と、さまざまな条件下でのコメントをドライバーからもらうことができました。時間の制約があった開発では、限られたテスト条件となりましたが、レースで収集したプロドライバーの生の声をしっかりとフィードバックして、17インチタイヤの完成形という高い目標へ向かって邁進していきたいと思います。」
開発チームから、GR86/BRZ Cupという舞台で最高の17インチタイヤを目指す強い意志を感じることができました。
POTENZAが目指す、さらなる走りの進化に、ぜひご期待ください。
元86/BRZレーサー(実は2013年初代ポールシッター)。
2022年シーズンはスーパー耐久(#59 DAMD MOTUL ED WRX STI)に参戦。
2016-19 ST-2シリーズチャンピオン
2022年BMW&MINI Racingレースディレクター。